◆ありさ先生のマラウイ通信◆

青年海外協力隊28年度3次隊 マラウイの小学校で教員をする

1年生算数のテスト

朝いつも通りオフィスで出勤簿に名前と時間を書いていると
校長先生の机の横に大量のノートが。

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280冊入りが9箱。合計2520冊。
政府から児童への支給品だそう。
さてどうしたものか。3850人も児童がいるのに。

どうやって分けるのか興味あるから後で聞こうと思いながら、
7時半からの朝礼へ。

今日は1年生の算数が見たい気分だったので
1年A組の算数を担当している先生に声をかける。
「1時間目算数だからいいよ。でも今日はテストの日だから面白くないかも。」
「低学年のテスト見るの初めてだから見たいよ!」


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バシッ!と木の枝でドアを叩きながらの
1年A組さんすうのじゅぎょうがスタート。

先生は無言で4問 問題を黒板に書いた。

次に + - の記号を何と読むかみんなで確認。
先生「5たす1は」バシッ 児童「5たす1は」
先生「2たす2は」バシッ 児童「2たす2は」
先生「4ひく1は」バシッ 児童「4ひく1は」
先生「9ひく8は」バシッ 児童「9ひく8は」
(まだ数字を読めない子もいるんだなぁ。)
この流れを2回する。

そして3回目
先生「5たす1は6」バシッ 児童「5たす1は6」
先生「2たす2は4」バシッ 児童「2たす2は4」
先生「4ひく1は3」バシッ 児童「4ひく1は3」
先生「9ひく8は1」バシッ 児童「9ひく8は1」

 

答えーーーーー!言っちゃってるじゃん!
と衝撃を受ける。
ではノートに書きなさいと先生が言い、みんな書きはじめる。
ボロボロのノート。
トイレットペーパーの方がいくらかマシなんじゃないかというものもある。

 

「こんなノート作ってるの。大変だったのよ。これで点数を把握しているの。」と、
先生が
ノートを見せてくる。

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1から4の数字しか入ってなかったから4段階評価かと思ったら、
すべてのテストが4問だけだそう。
これをみて私は不安になった。

 


出席番号もなく名前順にも並んでいないことに気づいたから……。

 

15分後。。。
終わった人は来なさいと言ったらしく先生の前に列ができる。
(まぁ答えも口頭で確認したし、みんなできているでしょう)

 

1人目 f:id:haalinco:20170316020845j:plain

ほとんど正解できてない。

先生「名前は?」 児童「***。」
名前を数ページにわたって探す。

2人目 f:id:haalinco:20170316021303j:plain

またもや。

先生「名前は?」 児童「***。」
先生名前探す。探す。
そもそものノートに記載されてる名前が間違っていたりする。
書き直す。


3人目f:id:haalinco:20170316021428j:plain

先生「名前は?」 児童「***。」
先生名前探す。探す。探す。
みつからないので書き足す。

4人目、5人目、6人目……。

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先生がとうとう
うわーーーーーーっとなる。
「こんなの時間がいくらあっても終わらない!」
(そりゃそうだ。何年同じことやってるんだ)
一度児童を戻す。先生名前を10人くらい初めのページから呼ぶことにする。
呼ばれた子が先生の前に並ぶ。
しかし、呼ばれた順では並べていない。早く来た順である。
またひとりひとり名前を聞く。
しかし同じページから探すだけでよくなり、先生満足。
30人くらい終わってあと約190人分のところで、先生急に立ち上がり
「オフィスに呼ばれてるから、Arisa続き進めといて。」と一言。
えええええええええ!!!!!

だれも呼びに来てないじゃん!

去りゆく先生の腕を必死で掴み、
「むりむり!できない!チェワ語話せないし!
名前も呼べないし!こんなリストからじゃ探せない!」と言うと、
「じゃあ丸つけだけしててよ。」と振りほどき行ってしまった。

(丸つけだけならやろうじゃないか。その代わり、
先生のように間違ってる答えにぜったい丸はあげない。0点て書いてやる)

次の瞬間。子どもが押し寄せてきた。
360度全方面からノートを持った小さな手が伸びてくる。
1メートル以上先からも。私の手が届くわけもないのに。
そして、後ろの子が前の子を押すので、押し返したりして、
お互いに痛い思いをする。
餌を持っている人に群がる鳩のようだと思った。頭や肩、腕すべて鳩だらけ。

英語で「押すな!列をつくりなさい!」と言っても伝わらず、
チェワ語では「座りなさい!待ちなさい!」しか言えず、
日本語で怒鳴りまくりながら
なるべく私の近くにいるちゃんと待っていそうな子の手からノートを取り採点する。
答えを書いてない子も多い。式すら判別できない子もいる。
神様に誰もケガをしませんようにとだけ祈って、
表情や態度そして日本語で、怒っているということ
この状況はゆるされてないということを表現しながら続ける。
ときどき押されて私もよろける。


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ふらふらしながら半分くらい終わったかなと思っていると、
教室の後ろの方で私の周りとは別のトーンの騒ぎ声が聞こえた。
女の子と男の子が取っ組み合いの喧嘩をしている。
周りが楽しそうにはやし立てている。
女の子は毎日家に遊びにくる子だ。名前もわかる。
「ファニー!なにやっているの!やめなさい!」

今日一番の大声を出す。
214人のすべての児童が凍りついたと感じた。
私が足を出せば鳩の群れが割れ、道ができた。
右手に女の子の腕、左手に男の子の腕を掴み、無理やり引き離す。
2人とも泣いている。
そのまま強引にオフィスまで引っ張っていく。
10人弱の先生たちが話し合っているところに割って入る。
みんなどうしたのかと、ぎょっとした目で私を見る。
担任の前に2人を連れていき、
「彼らが喧嘩をしていました。私はチェワ語が分からないので、
なぜ喧嘩をしていたのか理由を聞いてください。」と言って私は教室に戻った。
少し空気がひんやりとしていた教室は、
丸つけが先ほどよりしやすいような気がした。

 

校庭が賑やかになってきて、児童がなにか訴えているのがわかった。
(そうか、休み時間にしたいのね。)
日本語で「どうぞ。休み時間にしましょう。」と言うと
子どもが校庭に向かってパーッと駆け出していく。
入り口でまた押し合い圧し合い。いざこざ。
時計を見ると1時間半が過ぎていた。

 

その後、
喧嘩の理由や彼らのストーリーは何だったのか
先生に聞くと、
「え?理由なんて知らない。」
そこに校庭で拾ったゴミを細い腕に抱えて先ほどの2人が戻ってきた。
(理由を聞かない大人がどこにいるんだ…!
この人、罰を与えただけだ……。)
もう衝撃で何も言えなかった。

 

オフィス(と言っても机と椅子が3セットあるだけ)で校長先生に
授業中に10人弱の先生たちで集まって、
そんなに大切な話があったのかと嫌味を言うと、
「政府から支給されたノートの分け方について話し合ってた。
5年生から8年生だけがもらうことにようやく決まってよかったよ。」と。
(そうですか。子どもより大切なことがこの国にはたくさんあるのね)
私はグッと飲み込んで、
似つかわしくない青空を見上げ大きく息をすった。